高級キーボード「HHKB」英語配列のすすめ
リモートワークの普及で益々注目を集める高級キーボード。
本稿では高級キーボードの代表格のひとつであり僕が長年愛用しているHHKB(Happy Hacking Keyboard)について、日本語配列(JIS配列)を買うべきか英語配列(US配列)を買うべきか悩んでる人向けに、僕が考える「HHKBで英語配列を薦める理由」について取り上げます。
また本稿では、記事執筆時の2021年10月現在販売されているHHKBのProfessional HYBRID Type-S、Professional HYBRID、Professional Classicで採用されているキー配列について述べます。
HHKBのキー配列に関しては下記の公式サイトでご確認ください。
Happy Hacking Keyboard | キー配列 | PFU
まずは正しいタッチタイピングを身に着けよう
HHKBも含め、一般的なキーボードのキー配列はこのホームポジションによるタッチタイピングを基本として設計されています。もし「実は我流タイピングでやっている」という人がいれば、是非これを機に正しいタッチタイピングを学び直すことを強くオススメします。
実はそんな僕も長年染み付いていた我流タイピングを捨て、YouTubeで正しいタイピング方法を1から学びなおしたクチですが、3ヶ月もしないうちに正しいタッチタイピングをマスターすることができました。最初の1ヶ月くらいまでは指がつりそうになったりもしましたが、今では確実にこちらの方が高速かつ正確で、何よりも以前よりタイピングをしていて「楽しい」と感じるようになりました。
そもそもHHKBのような高級キーボードの購入を検討しているにも関わらず正しいタッチタイピングができていないというのは、キーボード本来の性能を十分に発揮てきていないという意味で本末転倒と言えるでしょう。
良いキー配列の基準
まず大前提としてキー配列に求めるものは人によって様々です。よって、ここではまず本稿における「良いキー配列とは何か?」という基準を明確化しておきます。本稿における「良いキー配列」の基準は主に次の3点です。
- ホームポジションからの指の移動を最小限に抑えている
- キー数は機能性を損なわない範囲で最小限に抑えている
- 直感的に操作できる
またキーボードの使用に際しては、次の2点を前提条件とします。
- ホームポジションを起点とした正しいタッチタイピングができる
- 日本語の入力方式はローマ字入力を用いる
HHKBで英語配列を薦める理由
1. キー数が少なくてコンパクト
日本語配列はキー数が69個なのに対して、英語配列のキー数は60個ととてもコンパクトに収まっています。コンパクトということはそれだけ指の移動距離も少なくて済むということです。英語配列はカーソルキー、半角/全角キー、無変換キー、変換キー、カタカナ/ひらがな/ローマ字キーと一部記号キーがありません。
そしてこの中で特に意見が分かれるのがカーソルキーと半角/全角キーの有無だと思います。
カーソルキーに関しては、英語配列では上下左右のカーソルキーを排除する代わりに、 Return 下の Fn を押しながら [ (↑)、 / (↓)、 ; (←)、 ‘ (→)を押すことでカーソルキーを実現しています。最初は不慣れなため使いにくいように感じるかもしれませんが、右小指を Fn に置けば人指し指と中指が自然とカーソルキーに来るように設計されており、こちらの方が日本語配列でカーソルキーを押すよりも移動距離も少なくて済むため、慣れればメリットは大きいです。詳しくは後述します。
半角/全角キー に関しては、英語配列ではWindowsの場合は Alt + `
で、macOSの場合は Cmd + Space もしくは Ctrl + Spaceで行います。特に Ctrl + Space による切り替えはホームポジションから左小指を1つ左に移動するだけで押せてしまうので、指の移動も日本語配列の 半角/全角 を押すよりも少なくて済みます。WindowsでもIMEの設定を変更するか、AutoHotkeyなどのキーマップ変更ツールを使えば Ctrl + Space での切り替えが可能ですので、日本語配列のように 半角/全角 をホームポジションから遠い場所にわざわざ独立キーとして配置する必要性はあまりないように感じます。
無変換キーの主な用途と言えば全角カナと半角カナを出す時だと思いますが、例えば「アップル」や「スカイツリー」など、カタカナで表現されるほとんどの単語は Space を押すIMEによる変換で十分事足りる上に F7 や F8 でも代用可能なので、近年はこの無変換キーの存在意義さえ危ぶまれているほどです。
変換キーについても、そもそもで変換をする際は Space を使うという人が大多数だと思います。再変換の使用頻度が高いという人にとっては好みが分かれる部分かもしれませんが、再変換の使用頻度が高いという人はあまり多くはないと思いますし、どうしても再変換が必要な場合は先程の半角/全角の切り替えを Ctrl + Space に割り当てたように、変換キーを Shift + Space などに割り当てて対応することも可能です。
カタカナ/ひらがな/ローマ字キーについても、使う人はそう多くはないと思いますし、どうしてもという場合はショートカットキーで対応することも可能です。
2. Return、Space、Delete、Shiftキーが大きくて押しやすい
英語配列はキー数が少ないぶん Return 、 Space 、 Delete 、 Shift が日本語配列よりも大きくて押しやすくなっているおかげでホームポジションからのアクセスもしやすくなっています。
Return (日本語配列の Enter に相当)に関しては、英語配列の方が日本語配列よりもホームポジションからの距離がキー1個ぶん近くなっています。一見すると英語配列の Return よりも日本語配列の Enter の方が大きくて押しやすいようにも見えますが、実は英語配列の Return の方が縦幅は小さくなっていますが横幅では大きくなっています。通常 Return も Enter も共にホームポジションから右小指を横に移動させて押すため、日本語配列の Enter のように縦に大きいよりも英語配列の Return のように横に大きくなっている方がホームポジションからの移動距離を考えるとむしろ合理的と言えます。
更に英語配列の場合、 Return が縦に小さいおかげでその真上にある Delete (日本語配列の BS に相当)がホームポジションから近くなっているため移動距離が少なくて済むので、僕のようにtypo(タイピングミス)が多く Delete の使用頻度が高い人には非常に助かります。
3. カーソルキーがホームポジションから近い
前述の通り、英語配列では Enter 下の Fn キーを押しながら [ (↑)、 / (↓)、 ; (←)、 ‘ (→)を押すことでカーソルキーを実現しています。
日本語配列でカーソルキーを押す場合は右手首の位置そのものを右下に大きく移動する必要がありますが、英語配列の場合はホームポジションから手首の位置はそのままで指をキー3個ぶん右に移動するだけでカーソルキーにアクセスすることができます。
最初はこの英語配列特有のカーソルキーに戸惑うかもしれませんが、画像を見てもわかる通り右小指を Fn に置けば人指し指と中指が自然とカーソルキーに来るように設計されており、こちらの方が日本語配列でカーソルキーを押すよりもホームポジションからの移動距離も少なくて済むため動きに無駄がありません。これに一度慣れてしまうと、たまにカーソルキーが独立しているキーボードを使うとカーソルキーを使う度に右手をホームポジションから大きく右下に移動しなければならないのが煩わしく感じるほどです。また、DIPスイッチで左 Alt に Fn を割り当てれば、右小指もしくは右薬指を1つ右に移動するだけですべてのカーソルキーにアクセスすることもできます。
それに日本語配列のカーソルキーは、 ↑ はちゃんと他のカーソルキーより上の位置に配置されているにも関わらず ↓ だけが ← と → と同じ高さに配置されているのは違和感を覚えます。それに対して英語配列のカーソルキーは画像を見てわかる通り、すべてのカーソルキーがゲーム機の十字キーのように上下左右にわかれて配置されているため直感的です。
このHHKBの英字配列特有のカーソルキーはかなり好き嫌いが分かれるようですが、「ホームポジションからの移動を最小限に抑えるという」観点から見ると英語配列の方が断然、移動距離が少なくて済みます。タッチタイピングと同じで、慣れてしまえばこちらのほうが動きに無駄がなく自然な動きでカーソルキーを使えるので僕は英語配列の方をオススメします。慣れるのにも個人差はあると思いますが、既に基本のタッチタイピングを習得できている人であれば概ね2、3ヶ月もすれば使いこなせるようになるでしょう。
4. 記号キーの配列が合理的で直感的に操作できる
例えば大括弧を意味する [ と ] は、日本語配列では両者のキーが上下に配置されているのに対して、英語配列は左右横並びに配置されています。括弧を意味する ( と ) や、 < と > は日本語配列・英語配列共通で横並びに配置されているにも関わらず、日本語配列では大括弧を意味する [ と ] だけが縦に配置されているのは統一感に欠けていてとても違和感があります。
‘ と ” に関しても、両者の記号は形状も用途も似ているにも関わらず、日本語配列では全く別の離れた位置に配置されていますが、英語配列では ‘ と ” は1つのキーで Shift を押すことで両者を切り替えることができるようになっており、英語配列の方が覚えやすく直感的と言えるでしょう。
: と ; も同様で、英語配列では1つのキーで Shift を押すことで両者を切り替えることができます。配置も ‘ と ” のキーの隣にあるので統一感もあり直感的になっています。
タッチタイピングを覚える時の最終難関はやはりこの記号キーの配列を覚えることだと思いますが、これに関しては英語配列の方が圧倒的に直感的で覚えやすく合理的にできていると言えます。
5. カスタムキーキャップの種類が豊富
これは言うまでもなく英語配列の圧勝です。
KBDfansやAliExpressを筆頭に、HHKB互換のキーキャップはすべて英語配列用のものになっています。むしろ日本語配列用のキーキャップなんて見たことがありません。他のHHKBオーナーのインスタの投稿などを見ていると皆さん各々でカッコいいキーキャップをつけてカスタムを楽しんでいますが、残念ながらそれらはほぼすべて英語配列向けの製品でしょう。
HHKBの日本語配列を買ってから他の人のカスタムキーキャップが羨ましくなっても時既に遅しです。もちろん通常キーは共通で使えますが、 Space や Shift のサイズは互換性がなく、刻印もすべて英語です。精々、PFU公式から出ているカラーキートップセットを買うのが関の山です。
最初は違和感があっても慣れれば英語配列の方が直感的で動きにも無駄がない
ここまで読んで頂けた方は、いかに英語配列の方が直感的で動きに無駄のないように設計されているかがわかって頂けたかと思います。もちろんこれは僕が冒頭で申し上げた前提条件を踏まえた上での話ですし、中には反対意見もあると思います。全員が全員、英語配列を使った方が良いとも思いませんし、再変換やカタカナ/ひらがな/ローマ字の切り替えを多用してショートカットキーで代用するのも嫌だという人も中にはいると思いますが、そういう人は全体の割合でいうと決して多くはないと思います。
それにそもそもでHHKBに限らず日本語配列というものは英語配列を元に日本語向けにアレンジされたものであり、どうしても色々と無理矢理詰め込んだような設計になってしまっている感が否めないのは事実でしょう。
実は僕も最初は日本語配列から入ったのですが、カスタムキーキャップが欲しくなって途中から英語配列に乗り換えました。最初は例のごとくカーソルキーに慣れずストレスに感じましたが、慣れてしまえば今度はノートPC内蔵のキーボードを使った際にカーソルキーを押す度に右手を右下に大きく移動しなくてはならないのがストレスに感じるようになりました。今では英語配列に乗り換えて正解だったと心の底から感じています。
冒頭で申し上げた通りキー配列に求めるものは人によって様々ですが、少なくとも本稿であげた前提条件でなら僕は英語配列の方が直感的で無駄がない動きができると思います。
あと無刻印かっこいいです。